これだから小児麻酔は面白い
鈴木 康之先生
日本小児麻酔学会について
勝又健一(以下勝又): 本日は小児麻酔のお話を聞かせて頂ければと思っています。宜しくお願い致します。
鈴木先生(以下先生): こちらこそ宜しくお願いします。
勝又: 早速ですが、鈴木先生は日本小児麻酔学会の理事長でいらっしゃいますよね。
先生: そうです。今は私が理事長をさせて頂いています。
勝又: 小児麻酔は学会においては、どういった状況なのでしょうか?
先生: そうですね。私の前に理事長をされていた竹内先生やその前の堀本先生が、小児麻酔を多くの先生方に普及させようと様々な取り組みをされたんですね。その一つが認定医制度なんです。認定医を作った事がきっかけになって、麻酔学会自体も専門医を取る為には小児麻酔をある程度経験しなければならず、そのような動きもあって、小児麻酔学会としては会員が2倍くらいに増えているんですよ。8年前に700〜800名くらいだった会員数が今は1500名もいるんです。
勝又: そうなのですね。
先生: なので、おかげさまですごく盛り上がってきています。小児麻酔は歴史があって、僕らなんかよりも大先輩の方が数多くいらっしゃるんです。偉大な先生方が大勢いらっしゃる分、若手がちょっとついていけないという事もあったりするのですが。
勝又: なるほど。
先生: それだと良くないので、学会の時に若手向けにセミナーを開催するなどの試みで若手も徐々に増えてきて、形態としてはすごくよくなってきているんですね。小児麻酔学会としては今年が24年目になるんですけど、その前から小児麻酔は小児外科の先生方と一緒に小児麻酔研究会というのをやってまして、多分1971年くらいからやってるんですよ。
勝又: 結構長いですね、40年以上も。
先生: 40年以上の歴史があるんですよね。でね、小児麻酔学会とよく比較されるのが心臓血管麻酔学会でして丁度同じ位に誕生したんですけど、7〜8年前は心臓血管麻酔学会の方が会員数がどんどん増えていって、小児麻酔学会は伸び悩んでて、ちょっと減るかもしれないという状況だったのが、ここ数年は盛り上がってきているんです。本当にそういう意味では、僕はやりがいがあるし、若い人たちに色々と伝えていきたいと思っています。小児麻酔の面白さを伝えて若い人たちを上手くリクルートすると同時に過去の偉大な先輩方の事も伝えていきたいなという風に思っていますね。
小児麻酔の道へ進まれた経緯は?
勝又: そもそも先生はどうして小児麻酔の道に進んだのですか?
先生: 僕は元々は小児科医だったんですよ。
勝又: そうなのですか、最初は小児科を選ばれたんですね。
先生: 大学生の時はあんまり勉強してなかったので(笑)その分小児科に入ったら、しっかり勉強できるかなと思って選びました。あと、子どもを好きだったということもあるので、内科よりもやっぱり小児科の方がいいかなと。父は内科と小児科の開業医だったんですよね。
勝又: どのあたりから麻酔に興味を持たれたんですか?
先生: それで、医師になって1年目の時に持った患者さんが小児白血病つまり小児がんの患者さんで、もう再発を繰り返して骨転移してしまい、本当に痛くて苦しんでいる状況でした。自分は知識もないし経験もないし分からなくて何もできず、先輩に聞いてみても「まあしょうがないよね」って…。今みたいにモルヒネを使って痛みを取る方法もあんまり一般的ではなかったんですね。
勝又: うん、なるほど。
先生: それで、麻酔科に聞きに行って、当時はブロンプトン・カクテルっていうのがあったんですが、それを飲ませて痛みを取るという方法でもやってみましょうかって。まあ当時の麻酔科の先生もそこまで小児の痛みの緩和とかケアってそんなに得意じゃなかったんですね。そのあと、僕が前に働いていた国立小児病院では既にPCA(自己調節鎮痛法)で痛みの治療管理をしていて、海外の成人ではもう常識的になってきてはいたんですが、当時小児では最先端でして、すごいなと思ったんです。それで、昔にあんなに僕が苦労したことが、これをやってあげていればあの患者さんをもっと楽にしてあげることができたんじゃないか、とすごく残念に感じましたね。
勝又: なるほど。
先生: それで、がんの患者さんとか、先天性の疾患患者さんとかを自分の技術や知識がないためにうまく治療出来なかったという悔しい思いがあって、この道に入ったっていうのはありますね。
勝又: それで麻酔に興味を持たれたんですね
先生: そうですね。それから、救急とか集中治療って失敗すると命に直結するじゃないですか。それで、これは自分が絶対にマスターしなきゃいけないと思ったので、大学の教授に相談したら「麻酔を勉強してこい」と言われたんですよ。
勝又: そのような経緯があったんですか。
先生: そうなんですよ。
小児麻酔の醍醐味
勝又: 話は変わりますが、小児麻酔の事を教えて欲しいのですが。
先生: もちろんいいですよ。
勝又: 素人感覚で小児と大人だとサイズ感が違うのはわかるのですが、それ以外にも違うところがあり、その辺りが小児麻酔の面白さに通じるところかなと思うんです。ざっくりとで構わないので小児麻酔のことを簡単に教えてもらってもいいですか?
先生: はい。まず僕らの扱っている患者さんなのですが、ついこの間もNICUに350グラムの患者さんがいたんですよね。TTTS(双胎間輸血症候群)という病気で、妊娠の週数のまだ早いうちに双子で双胎が分かった場合に吻合している血管を子宮鏡のレーザーで焼くっていう胎児治療をしているんですけど、そのTTTSをレーザーで治療したら早産で生まれちゃって…。多分片方が350グラムくらい、もう片方がたぶん1100グラムくらいの赤ちゃんが生まれたんですけど、350グラムの子の胃が破裂してしまいそれで緊急手術をしたんです。このような350グラムくらいの各臓器が未熟な小さい方から、最近は子どもでも肥満が問題になっているので、100キロ近いお子さんを手術するケースもあります。まあ基本的に小児って15歳くらいまでを小児と言ってますけど、最近は大きい方で180センチ、100キロくらいのお子さんもいらっしゃっいますからね。そういう意味では体重は300倍くらい差がある子どもたちの麻酔をするので、先ずは個体差がすごくありますよね。
勝又: そうですね。
先生: それから手術を受けるとか、麻酔を受けるっていうのは、僕らが考えてる以上に子どもたちにとっては大きな壁なんですよね。例えば、先天性の病気のお子さんで何回も何回も手術室に来る方もいらっしゃいますし、手術の時や手術後に痛い思いや辛い思いをする事もありますからね。昔に手術したお子さんがある程度大きくなって再手術で手術室に来ることがあるんですけど、色々と成長してるんですよね。だから、子どもの成長段階や今までの手術の経験とか、それまでの診療課程でのつらい体験とか、様々な事を加味してその時その時にあった対応が必要になってきますね。今日も手術でありましたけど、生体肝移植の患者さんで8ヵ月のお子さんがいらっしゃったんですね。それでお母さんと入ってくるんですけど、8ヵ月っていうと、周りの事はよくわかってないかなって思うんですが、でも実際にお母さんと一緒に入ってきてお母さんから離されてそれぞれ違う手術室に入っていくと、そこでギャーって泣くんですよ。そういうのを目の当たりにしたので、やっぱり母子の分離っていうのは、子どもにとっては相当心理的にストレスなんだなって感じますよね。ですから、そういうストレスをなるべく少なくして麻酔をしなければいけないと思ってます。
勝又: 先生がそういう気持ちで子どもと向き合っているのは、家族にとっても非常に心強いですね。
先生: まあ、これはまだ分からないことなんですが、今、麻酔薬が子どもの発達や脳に影響するかもしれないって言われてますけど、それって薬の影響ではなく、手術の体験とか、痛みの記憶、母子の分離など、いろんなことが重なって、子どもの脳の発達に影響を与えてるのではないかなと僕は思ってるんですよね。ネズミを使った動物実験では証明されていまして、ネズミに6時間麻酔して、脳を解剖すると脳の細胞が死んでしまい、成長したネズミは学習能力が落ちてる、という動物実験があるんですけど、ネズミにとっての生まれたばかりの6時間は多分人間にすると3ヵ月とか4ヵ月とかになると思うので、その期間麻酔をしていることになると、それはもうレベルの違うお話だと思うんですね。もちろん薬の影響も全くないとはいえないですけど、やっぱりそれ以外の、手術とか、母子分離とかそういう要因が子どもの発達に影響を与えているのではないかなと僕はずっと思っているんですよ。子どもは生理的にも解剖学的にも違うし、ただ小さいだけではなくて、薬物動態とか薬理学的にも大分影響がありますし。まあそれ以外にも精神的にも違うし、成人と色々と違うので、また年齢に合わせて僕らは考えて麻酔をしなければならないと常に思いながら麻酔に従事していますね。
勝又: なるほど。
先生: あともう一つはですね、大人の手術は基本的にはご自身で判断できますが、子どもが病気の場合は家族の事も考えて、治療や説明をしなければいけないんですね。子どもが病気だと家族の方も色々と悩んでいる事が多いので、そういうところも考えて治療に当たらないといけないっていうのは常に考えています。外科の先生方とか、主治医の先生方っていうのは、やっぱり自分の気持ち的にもポジティブにしなくちゃいけないので、良い事を言うんですよね、家族にも。まあ最近は訴訟の問題とかも色々ありますけど、ただ僕らはどちらかっていうと俯瞰した立場から悪い事もお伝えして、それで手術をするかどうか確認しています。まあ親からしてみると「なんでこんなこと言われるんだろう」と思う事はあるかもしれませんけど、誰かが言わないといけない事ですので。こういった事も外科の先生方とか内科の先生方とか小児科の先生方と一緒に、どうやって治療していくかっていうのは絶えず議論してますね。
勝又: 今のお話を伺ってると、一般的な大人の手術よりもメンタルケア的な色彩が強いイメージですね、家族のケアとか。
先生: そうですね、家族のケアは絶対必要ですね。やっぱり子どもが病気だと家族も病んでくるんですよね。お父さんとお母さんの関係がだんだんとギクシャクしてくるという事はよく経験してますよね。まあそこらへんをサポートするのは僕らが対応する訳ではないですが、そういうサポート体制は昔に比べて大分充実してきています。
勝又: 手術して終わりじゃないですもんね。
先生: もちろん、そうなんですよ。
勝又: なるほど。少し昔ですが小児科の先生とお話した時、何が一番面白いか聞いた事があるんです。その時に「小児科は子どもの成長が様々なので、3歳だからこうとか5歳だからこれといったパターンがなく、もちろん大人もそういった側面はあるけれども、大人よりも子どもはもっと複雑でそれが難しさに通じつつも面白い」と仰っていました。それで、なんとなく小児麻酔も同じような部分があるんじゃないかなと思いまして。
先生: まあ、そうですよね。
勝又: 300倍とかいったら相当な違いですからね。
先生: だから、小児麻酔って相手も小さいし細かいので、若い先生方で苦手意識を持っている方も多くいるのですが、それは当然だと思うんですよね。ただ、見たことがない触れたことがないっていう人たちはやっぱり、一度は僕らみたいな所で一緒に働いて、苦手意識をなくしましょうよと。まあ「子どもが嫌い」と言われるとやっぱりそれはどうしようもないんですけど…。あともう一つやりがいのある仕事で子どもは元気になり始めると、回復も早いんです。特に集中治療なんかやってると、重症だった患者さんが元気になって歩いて退院する姿を見ると本当にもう感激します。
勝又: また違った喜びがありそうですね。
先生: そうですね。僕もこの道が長く、昔から患者さんを診てきているので、退院された患者さんと年に何回かやり取りしているんですが、立派になったという便りを貰うとすごくうれしいですね。
勝又: それは小児医療ならではかもしれないですね。
先生: 昔ICUで働いてた頃に、すごく大変だったお子さんが元気になったんですね。その頃は脳炎とか脳症とかで、この子将来どうなっちゃうんだろうって思ってた子が、高校卒業して医学部に行きましたと便りが来ると、なんか報われたなって。そういうのって、やっぱり小児医療に携わってないと経験できないだろうなって思いますね。
小児麻酔の経験は今後の麻酔科人生で大きな財産に
勝又: 少し話題を変えますが、一般病院にいらっしゃる麻酔科の先生が新生児や乳児に麻酔をかける機会っていうのは自分の病院では少ないと思いますけど、幼児や学童くらいの方に麻酔をかける機会はあるじゃないですか。
先生: ありますね。
勝又: それは小児麻酔の専門家からみてどうなんですか。
先生: 僕としては小児麻酔をある程度経験されてる先生に診て貰いなとは思いますけどね。まあ、新専門医制度で新しくプログラムを受ける人たちは小児麻酔が必須になったんですけど、4年の間に、たった25例だけなんですよね。それも6歳未満の症例なので、新生児は必ずしも経験する必要はないんですよ。
勝又: うーん…。
先生: もちろん、色々な議論があって結果的に25例に落ち着いたんです。新専門医制度で小児麻酔が必須化されたというのは、非常に価値のある事だと思います。
勝又: 成人麻酔を普段されてる先生が小児麻酔をかけるとなると、先ほどもお話頂きましたが、成人と差があるので、恐らくびくびくしながら麻酔をかけてらっしゃる先生方もいらっしゃるのではないかなと思うのですが。
先生: あると思いますね。基本的に風邪を引いていれば麻酔はしないんですけど、僕らでも微妙なケースがありまして、例えば親がどうしても手術をして欲しいと言われる場合があるんです。それで大丈夫だと思って麻酔をして麻酔が終わって抜管したら、喉頭痙攣を起こして全身チアノーゼでヒヤッとするような経験をすることが時々あったりしますので、そういった意味では看護師さんやスタッフの方も小児麻酔に慣れてる施設で手術をした方が子ども達は幸せかなと思ったりもしていまして。ある程度、集約化というのは必要だと思います。
勝又: そういった意味では、小児麻酔は成人麻酔とは違った、別の経験をする機会もあると思いますし、小児麻酔の経験が逆に成人麻酔に生かせる事もあったりするのかなと思うんですが、どうなんでしょう。
先生: 僕は子どもにとって非常にいいことは、大人にとってもいいと思ってるんですよね。子どもの知識や小児麻酔の経験と技術、考え方を応用して、成人麻酔をするとすごく患者さんにメリットがあるだろうなって思います。
勝又: それは、もしかしたら小児麻酔をトレーニングする最大のメリットかもしれないですね。面白さ云々とかではなくて、自分の核となる、麻酔技術やスキル、考え方において小児の経験が生かせますよね。
先生: そうですね。
勝又: そういった意味で25例という一つの基準はありますけど、できれば経験は多いに越したことはないとは思うのですが。
先生: そうですね。やっぱり25例をバラバラでやるよりは、ある程度の期間、集中的に例えば3ヵ月とかやられた方がいいかなと思います。25例っていうのは最低限の基準だと思っていまして、小児麻酔をできれば6ヵ月くらいは研修に回ってきて欲しいなと僕は思っています。その期間に経験したことが、後の自分の麻酔科人生にも生きてくると思うので。
勝又: なるほど。例えば今成育医療センターで6ヵ月研修を受けると、どのくらい経験できますか?
先生: 半年だと多くて200例くらいですかね。その中にも本当に小さい新生児や未熟児の患者さんとか様々な症例を経験できると思います。
勝又: 半年ほどいると他科の先生方とも接する機会が多くなると思いますし、小児科や小児外科の先生方はまた別の考えを持っていたりするでしょうから、そういった意味でも色々と経験できそうですよね。
先生: 違った角度で患者さんを診てますけど、お互い助け合いながら、仕事をしていますね。
勝又: 成人医療も他科との連携性っていうのは当然必要なんですが、小児医療はそれ以上にチームワーク感がありそうなイメージですね。あくまでイメージですが、各科との距離感が比較的近いんじゃないかなと思っています。そういった側面からも小児麻酔の面白さがあるかもしれないって思っているんですよね。
先生: やっぱりこういう施設なので研修に沢山の先生方が来てくれてるんですが、麻酔のトレーニングも大事なんですけど、横の繋がりを大事にして欲しいと思っています。それは麻酔科だけじゃなく、小児科や外科など色々な科の先生方も含めて、その繋がりが将来の財産になりますよっていうことを僕はいつも強調して言っています。
それって自分が若い時に一緒の所で働いてた人たちと様々な所で出会う機会があって、別の病院で一緒に働いたり、違う科として働いたり、また巡り合うチャンスもあるんですね。僕自身も最初に麻酔の道に入った時に同僚から色々教えてもらったことって、すごく自分にとってプラスだったんです。それが今に繋がっているのかなと考えると、その時に作った財産がやっぱり大きいのかなって思いますね。
勝又: そうですよね。他科の先生との繋がりは麻酔科医としてアドバンテージになりますからね。一方で、僕たちエージェントの立場で、病院の執行部の皆さんや外科の責任者の先生とお話した際に、麻酔科に求めるものは何かっていう話になるんですけれど、もちろん麻酔が出来ないと論外なんですが、その次に来るのは実は…。
先生: コミュニケーションですね。
勝又: 仰る通り、コミュニケーションなんです。他科の先生たちと如何に上手くやり取りするかだと思うんです。他科の先生との適切な距離感みたいなものを小児麻酔を通して経験が積めるのかもしれないですね。
先生: そうですね。勝又さんに言われるまで、そこまで深くは考えたことがなかったんですけど、そういう風な所に繋がってくるかもしれないですね。
勝又: 僕らは大学の医局会とかで講演させてもらったりするんですが、その時に若い先生方に何を伝えなければいけないかなと考えるんです。そこで挙げるのは、仕事での人間関係を円滑にするポイントやコミュニケーション術、そういう職場環境の作り方なんですよね。1人だと何も出来ない事の方が多いので、如何に周りと連携しながら対処、対応するかみたいなところが大事で、病院が特殊なスキルを求めている事ももちろんありますが、どちらかというと普通の疾患を普通に対応してさえくれれば、スキル面は合格なんですよね。そういった意味では小児医療の場合はみんなが何とかしたいっていう思いがより強く出るような気がしますし、各科のコミュニケーションにも特徴があるような気がするのですが。
先生: そうですね。最初の話で少し触れましたけど、主治医の先生は患者さんを諦めきれない場合があるんですよね。例えば白血病の患者さんにとことんまで抗がん剤を使って治療するケースがあったりするんですけれど、これが本当に良いのか悪いのか、患者さんの為になるのかと疑問に思う事もありますし、だからこそ、僕らは客観的な目で見てお話をする場合もあります。まあ最終的な決定権は主治医の先生がされるのですが。
勝又: まあそれはそうですね。そういった意味で麻酔科の先生は全体を見れる位置に常に置いとかないといけないですね。
先生: そうそう、そういうことですよね。
勝又: 逆に主治医の先生と同じようにのめり込んじゃいけないですね。
先生: そう思っています。その通りです。
勝又: 今日は色々お話しを伺いしましたが、成育医療センターは、スタッフの数も多いですし、日本の小児医療の中心を担う病院の一つですので症例も数多くあるかと思うのですが、特殊な症例とかあったりされますか。
先生: そうですね。先ほど少しお伝えしましたTTTSは、おそらく全国で10施設くらいしか行っていないと思いますし、先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児鏡下気管閉塞術での胎児治療とかはここでしかやってない治療だと思います。胎児診療科が当院にはあるのですが、将来的には周産期・母性診療センター長の左合先生を中心に、胎児のうちに脊髄髄膜瘤や重症の大動脈弁狭窄で左心室が小さくなってしまう胎児の手術を始めようとしています。
勝又: 今のお話って、麻酔的にもとても複雑そうな気がするんですが、当然お母さんにもかけるわけですよね?
先生: 当然お母さんにもかけます。
勝又: お母さんにかけて、胎児にもかけるんですか?
先生: お母さんから経胎盤的に麻酔薬はある程度移行しますけど、それでは完全に麻酔がかからないんですよね。胎児治療のポイントは妊娠週数の早いうちに胎児に介入するので、子宮が収縮しないように、僕らのとこではセボフルランでお母さんの子宮を弛緩させるんですよね。あと、胎児にも介入するので痛みを感じたり、あとは逃げたりするので、胎児にも麻酔をします。それで、具体的には胎児鏡という器具で胎児の臀部に麻薬や筋弛緩薬を筋注して麻酔し、胎児も動きを抑えて治療するというのを今やっています。
勝又: それは、殆どの先生方が経験されてない領域ですよね。
先生: ないと思います、ここでしかやってないと思いますので。
勝又: それはナショナルセンターとしての貴院の特徴だと思いますが、先ほど小児麻酔が麻酔科医としてのベースとしても非常に意味があるということも含めて考えると、小児麻酔の奥深さというか面白さとか、色々と是非皆さん少しでも経験して下さいって感じですかね。ちなみに今、成育医療センターの麻酔科のポストは充足中なんですか?
先生: 今ね、実はスタッフのポジションは空いていますよ。
勝又: あ、そうなんですか(笑)
じゃあ、我こそは是非にって感じでしょうか。
先生: そうですね。知的好奇心のいっぱいある人は是非。歓迎ですね。
勝又: 本日は楽しかったです、貴重な時間をありがとうございました。
先生: いやいやこちらこそ、色々な話が出来て楽しかったです。