オペ室マネジメント経営の極意
佐藤 浩三先生
勝又健一(以下勝又): 本日は宜しくお願いします。
佐藤先生(以下先生): こちらこそ宜しくお願いします。
勝又: 早速ですが、色々とお話をお伺いしていきたいと思います。まず今回の対談ですが、オペ室のマネジメントにフォーカスを当てて、若い方へメッセージを届けられればと思っております。まず、先生とは前々職から20年近いお付き合いさせていただいていますがさまざまな病院で部長職を経験されていらっしゃいますので、今回お声がけ致しました。前にお話を伺った際に、20年以上麻酔科のトップとして様々な病院でご勤務されていると聞いて、大変印象に残っています。
先生: そうですね。実は北海道の病院で麻酔科5年目で部長を任されてから、それ以来ずっとトップを任されているんです。(笑)現在勤務している湘南鎌倉総合病院のような大規模な病院や、中規模の病院まで様々な病院で勤務しました。
勝又: それで言いますと、長いお付き合いの中での印象ですが、先生は麻酔科医の義務と権利のバランスがとてもよく取れているのではないかと思っております。特にその中で、こだわっているポイントがあるのではと思うのですが、いかがでしょうか?
先生: 一番は社会性を持って他科の先生達と協力していくことですね。患者さんの為に働いていますので、そこが一番だとまずは思っています。僕らは患者さんに信頼をされて医業というのを営んでいるわけであって、それを守れない人は医師としていかがなものかと思います。他科の信頼を得るということは、結局は患者さんの信頼を得るということだと思っています。なので譲れないのは患者さんの命ですね。まあ当たり前になってしまいますが。
勝又: その部分に関しては、麻酔科の代表としてしっかりと他科と渡り合ってきたということでしょうか。
先生: そこは曖昧にはしないところが大事ですね。「For the Patient」ができない人は医師ではないと思っていますので。
勝又: 残念ですがそういう人がいるのも事実ですからね。一方で麻酔科として守る権利に関して、こだわっていることはありますか?
先生: まずは自分の生活じゃないでしょうか。自分の生活があってはじめて仕事に取り組めますので、麻酔科部長としてそこはしっかりオンオフを意識したマネジメントをしてきました。現在も当直以外はオフにしていますので、呼ばれることはほぼ無いですね。九分九厘無いです。
勝又: お立場が上がってどうしてもということがあれば別だとは思うのですが、いわゆる中堅の先生や若手の先生に関しては、担当業務が終了すれば帰れるということでしょうか?
先生: そうですね。基本、症例が1列になったら当直の担当医が対応しますので。
勝又: 残業とかはいかがでしょうか?
先生: 手術が立て込んでいればそれはしょうがないですけれども、昨日は胆管癌で19時30分まで残っていた手術があって、自分が当直だったので、他の方は皆さん17時30分で帰っていますよ。
勝又: 部長の先生が当番だからといって、なかなか帰りづらい医局もありますからね。それを考えると、ルールとして徹底されていて、自分のやることさえしっかりこなしていれば帰れる風土があるんですね。
先生: そうですね。
勝又: 麻酔科において1つのアドバンテージは、オンオフのメリハリがつきやすい診療科であるところだと思っています。ただオペレーション側である病院の理解が無いと、診療科的にはやりやすくても必ずしもそれが通らないとか、なんとなく帰ってはいけない雰囲気があったりとか、そういうケースも散見されるのですが、こちら湘南鎌倉総合病院さんではそういうことは少ないということでしょうか?
先生: あったとしたら直ぐに私が抑えますよ。(笑)これは他の病院でもそうでしたけれども、そういう声が上がったら全部私が対応してきましたので。
勝又: そこは佐藤先生がリーダーであられる中での1つのお約束に近い感じでしょうか。オペレーションの細かなところも徹底できているということですね。時間管理に関してはいかがですか?
先生: 前は17時を過ぎてから入室させていた科もありましたが、私が入職してから、それはもうやめていただきたいと交渉しまして、現在は17時以降に手術は入らなくはなりました。
勝又: それは先生方のオンオフの生活を守るという方針と共に、他科にしてみても安心して手術ができる体制と環境を提供出来るので、win-winの関係になりますよね。
先生: それが1番だと思います。最終的にはそれが患者さんの為になりますし、結果手術数が増えるんですよ。
勝又: 時間のコントロールができますからね。どこの病院でもそこがゆるいとなかなか、絵に描いた餅になりがちで、予定通りに進まない、人員配置も困る、結果残業が増えたりとか頭数が足りないとかということにも繋がりますからね。
先生: 結果、疲弊して辞めていってしまいますよね。
勝又: そうですね。
先生: どんなに遅くても、17時、18時くらいには終わって帰れるという状況にしておかないと、本当に疲弊して辞めます。なので昨日も非常勤の先生にも17時30分には上がってもらえるようにしてます。
勝又: 自分の症例が終わったらだんだんと帰っていくようなイメージでしょうか。
勝又: そうですね。物の言い方、お願いの仕方、相談の仕方、それから根回しの仕方、色んなことにある意味テクニカルなことが必要じゃないですか。それが上手くできる先生もいれば、やっているつもりだけど上手くいかない先生もいますよね。他科に一人だけ声の大きい先生がいて、その人を抑えきれないケースの時には揉めるというのをよく伺いますけど、まあそこを喧嘩すればいいかというとそういう訳ではないですし。
先生: 例えば長い手術に関しては、長いのは分かってるんですよね。それを一言もやめろとは言っていなくて。
勝又: やめろではなくて、どういうルールで長い手術をみんなでカバーしながらやるかっていうことを、私が佐藤先生とお話してよく思うのが、先生はしれっとやられるので、おそらくそこまで難しさを感じていらっしゃらないのではないかと思います。ただ、一方でそれが大きな課題だと感じている施設もありまして。
先生: まあそうですね、そういう話はよく聞きますけどね。でも最初から、昨日もそうですが、症例によっては8時間、9時間かかるので、それを5時間で終わらせろなんて一言も言っていなくて。
勝又: やっぱりかかるものはかかりますからね。
先生: そうなんですよね。それは勿論分かっている、といいますか。勝又さんもご存知かと思いますが、私は麻酔科になって25年が経ちますが、そのうち10年は救急やICUを見てきて、また人が少ない時は手術に入ってたりもしてましたので、そういう色々な経験値もあっての事だと思いますけどね。
勝又: そういう経験も若い先生達のいい意味でのアウトプットに繋がっていけばいいかなと思いますし、これからの麻酔科の先生に求められてるものというのは、安全に麻酔をかけて覚ますは当然なんですけれど、その先に、 周術期特定行為研修制度の件だとか色んな事が入ってきますよね。結局一番求められるのは、他科の先生方とどれだけ協力して、どれだけ数をしっかり管理できるかなど、安全なオペ室管理が問われてくると思いますね。
働き方改革が麻酔科医にどのような影響を与えるか
先生: そしてそこに今度、2024年から始まる医師の働き方改革と、2025年には病床削減があるので、そこでどう勝ち抜いていくかという時に、手術室というのは、病院として非常に重要なツールだということをまず麻酔科が理解しないといけないと思います。今後の厚労省の動きなどを見ますと、個人的な考えですが中小の病院は手術を続けていくことに関しては厳しくなるかもしれないと思っております。その点を考えると、ある程度大きな組織に属していた方がいいかもしれません。働き方改革によって、特に連続勤務が規制されるので、外科系の先生が一番厳しくなると思うんですね。28時間働いたら24時間働けないんですよ。当直して4時間働いたら、絶対に休まなければいけなくなってしまうんです。それを厚労省が決めてしまったので。
勝又: そうすると本当に頭数がいないと、救急含めて常時対応するという事が物理的に不可能だということになってきますね。
先生: 当院だとERに独立して人がいるので、ERは三交代制を敷いてますし、麻酔科に関しても、連続勤務は基本24時間で終わりにしてますので、ER、麻酔科、あと循環器内科もチーム制にして、もう働き方改革に移行できる準備を整えています。そのプロジェクトに自分が入ってるから分かってることなんですが、そうすると残るは外科系なんですよね。これはあくまで僕の考えですが、厚労省の最後の切り札が病床削減かなと思っています。
勝又: 外科医の絶対数がいないですからね。若手が若干ではありますが希望者が減ってますので、外科医がしんどいかもしれないですね。
先生: そうすると麻酔科の働き場所がなくなるんですよ。
勝又: 前まではボトルネックが麻酔科と言われてましたが、いくら麻酔科が増えたとしても、逆にオペレーターがいなくなるということですね。
先生: 手術ができる病院が減る可能性を想定しないと、これから麻酔科は生き残れないですね。
勝又: ここは関心を持ってないとなかなか入ってこない情報ですからね。
先生: 2025年問題が出たのは2001年の話で、私は幸いにもそのような病院で働いていましたので、2025年問題はずっと意識していました。それを知った上で医師の働き方改革の話題が出たので、これはそれに連動してるなという風には考えております。
湘南鎌倉総合病院を世界水準の医療機関に
勝又: ちなみにですが、湘南鎌倉総合病院で先生に期待されていることはなんでしょうか?
先生: 病院から要望されていることは、将来は1万5,000件から2万件、局所麻酔交えてですけど、マネジメントして欲しいと言われています。僕が着任した時は症例は1万件超えてましたが、麻酔科管理の症例が50%くらい、5,000件あるかないかくらいだったのですが、昨年度は6,500件で、麻酔科管理件数を増やしているというのは評価していただいているのかなと思います。患者さんの安全を考えた時に、麻酔科管理件数が増えた方が良いだろう、と常々思っていることですので、必要なことをやっていけているかなと思っています。まあ手術件数を増やして欲しいというのはどこの病院にもニーズがあるとは思います。
勝又: オペ室が増えるようなお話をされてましたが、どのくらいに増える予定ですか?
先生: 16室あるのが1室増えて17室になります。病院の予算次第になりますが、もう1室増やすことは可能ですよ。
勝又: 計画は計画、スタッフが揃わなければどっちにしてもというのはあるので、単純ではないと思うのですが、ただ人数が増えていくことで、麻酔科の働きやすさが変わってくるという風に見ています。
先生: 前述しましたが、当直業務のあとは9時に勤務終了していまして、外来担当の人はその日1日は外来専従でやってもらっています。外来しながら手術麻酔をしてもらうということはないですし、メリハリついた形でやってもらっていますね。外来をやった後に手術麻酔をやるということもないです。
勝又: ちなみに、1人当たりの年間症例数というのは1つの忙しさの基準だと思うのですが、こちらはどれくらいですか?
先生: ここに赴任してきてからずっと統計を出していますが、麻酔科管理が年間で6,500例で、麻酔科非常勤もカウントして常勤の人数に置き換えるとだいたい17名から18名なんですね。なので平均すると1人当たり年間で300から400例くらいでしょうか。多い人で も540例くらいです。
勝又: イメージよりは少な目ですね。多い人でも年間で540例やろうと思うとかなり短いオペをやらないとこの数にはならないですよね。
先生: 心臓血管外科や脳神経外科、呼吸器外科をやりながらの数字ではないですね。そういうのは若手の先生がやっているので、540例というのはNo.3のベテランの先生の数字です。若手の先生に経験を積んでもらう為にも、若手の先生に大きな症例を任せています。
勝又: 若手の先生に対するアドバンテージというか、大学病院や他の中堅総合病院に比べて短期間である程度、重症例をしかもバックアップ体制が取れているなかで経験が積めるということですね。例えばシニアレジデントクラスで麻酔科として一応ある程度対応できるようになってきて、これから麻酔科を専門的に目指したいと言っている先生方が、佐藤先生の感覚でどのくらいで専門医並の経験値が積めそうですか?
先生: きちんと勉強してきちんと努力してくれるのであれば2年ですね。2年目で後期専門医、今でいうプログラムの専攻医になっていただけるのであれば、1年半あれば心臓血管麻酔も1人でできるようになると思います。
勝又: もちろん本人の努力というのもありますよね。
先生: 3年目でJB-POTをとっていますね。実際にそういう方もいます。専攻医の2年間で取ってる状況にあります。これは他よりもはるかに早いと思います。
勝又: それは素晴らしいですね。
先生: 年間、開心術を300件やってますので。
勝又: 年間300件は多いですね。
先生: そのほかにTAVIが年間150例、それだけやると取れます。
勝又: それだけ件数があると幅広く症例に関わるチャンスがありますね。
先生: 基本定期の心臓血管外科とTAVI、mitral valve(僧帽弁)、それから三尖弁の治験も始まりますが、この辺りの症例は若手が中心となってやることになっていますね。今その中心となっているのが心臓血管麻酔の専門医も持っている11年目の太田先生、そこのマネジメントができるような状況になってます。
勝又: 11年目で任せられる程の人材が育っているというのは素晴らしいですね。
先生: まだフォローしないといけないですけどね。(笑)
勝又: 今回の記事を一つきっかけに、立候補は是非にということでしょうか。
先生: そうですね。全国から受け付けていますし、ここの麻酔科の医局に関していうと出身大学は全てバラバラなので、学閥的な事は全くないですし、多様性を全員が認めています。ダイバーシティ的なところが担保されていると思いますし、理由があってやっていることに関しては否定はしません。もちろんメンバーや患者さんに害をなすことは駄目ですけれども、それ以外のことに関しては、それが例え若手であってもちゃんとした意見があるのであれば、聞き入れて採用するような風土がありますね。
勝又: それでいいますと、様々なキャリアステージの先生方もいらっしゃると思うのですが、例えばお子様のいる先生なんかはフルタイムで働けない等の要望もありますが。
先生: そうですね。現実に今、子育て中の方が2人いて、その内の1人はずいぶん前からいらっしゃる先生ですけれど、幼稚園の時は週3日の9:00~15:00、小学校に上がった去年から9:00~17:00で週4日という形でステップアップしていっています。彼女も心臓血管麻酔専門医を取りたいという希望もあるので、それに合わせてプログラムを組んでいます。もう1人の方は一昨年医局を辞めて来ていただいたのですが、小学校にお子様が入学するということで週3日で勤務して頂いています。
勝又: 働き方が1つだけではなく、出来るだけ一緒に長く働けるような工夫ができる、そういう文化が出来ていることはいいですね。
先生: それぞれのライフスタイルにあった働き方をしていただけければと常々思っていますので。
勝又: お子様のいる先生も時間制限があることが多いですが、介護の問題も大きくなっていくのかなと思います。私も介護をやっていますからよく分かるんですけど、まあ時間が取られるんですよね。そうなると、お子様のいる先生に限らず家庭の事情で時短を選択せざるを得ない事もあるかと思いますが、そういったこともその時々の事情で柔軟に対応出来たりできますか?もちろん病院のルールとの兼ね合いもあるとは思いますが。
先生: 対応出来ますし、自分は以前の病院でそのようにしていただいたいてたこともあります。自分の母親の介護をしながらでの週4日勤務でした。それでも主任部長やらせていただいていたんです。
勝又: あとはベテランの先生方も勤務されていたりするのでしょうか?
先生: 今一番ご高齢で70代の先生がいらっしゃいます。彼は週2日しか来ていませんけども、普通にその2日間はしっかりと残業までこなしていただいています。もっと働きたいとまで仰って下さっています。
勝又: お元気な先生ですね。様々なステージの先生方が活躍されていますね。
先生: これはよく言われていることで、徳洲会は宜しくないという話は僕も入職する前はよく聞いていましたけれど、全くそんなことはなかったですね。
勝又: 食わず嫌いの先生が多い印象が僕も強くて。
先生: そうですね。
勝又: 実際に働いて合わない先生が一部いるのは事実だと思うんです。
先生: どの組織でもありますからね。
勝又: ありますよね。で、その合わない先生方の声が少し強くなり過ぎているのかなと思います。
先生: それは勝又さんが仰る通りなのと、徳洲会の医療というのは、申し訳無いけれども日本のトップではないです。これは徳洲会全体のレベルを上げるために僕らがいるんだと思っています。麻酔科医がイニシアチブを取るのはそこだと思うんです。
勝又: なるほど。
先生: あと、私はここの病院を日本一にしたい世界一にしたいと思っているので、その為には僕らが頑張らないといけないのですよ。最終的には世界にも評価される病院にならないといけない。メイヨークリニック(ミネソタ)だったりジョンズホプキンス病院 (ボルチモア)、そこのクラスまで肩を並べられれば最高ですよね。
勝又: すぐにというのは難しいかもしれないですが、高い目標は良いですね。
先生: 僕が死んでからでしょうね。(笑)
勝又: 本日はお忙しい所ありがとうございました。
先生: こちらこそありがとうございました。